Research

 

はじめに

本研究室の目指すもの

宇宙が加速膨張を続けていることがわかったものの、その源や宇宙のほとんどの物質はまだ見つかっていません。現在の宇宙には少なくとも3つの未知のもの、ダークバリオン、ダークマター、ダークエネルギーが潜んでいるのです。特に、宇宙の未来を支配するダークエネルギーは、現代物理学の究極の謎にも数えられています。私たちは、最新の人工衛星を使って3つのダークを探査し、宇宙進化の謎にせまります。そのため、国内にとどまらず国際的なコラボレーションにも力を入れています。 

 

銀河団

ダークマターに支配された最大の天体

銀河団とは名前の通り、100個から1000個もの銀河が集まった宇宙最大の天体です。しかしその実態は、正体のわからないダークマターの塊であり、その重力によって高温のガスが大量に閉じ込められています。ダークマターは光を出さないため直接観測することはできません。そこで私たちは、高温ガスの放つX線を人工衛星で捉えることで、そこに潜むダークマターの分布を分析しその性質にせまります。

近年、電波・可視光・X線という様々な波長にわたり本格的な銀河団の探査が進んでいます。銀河団の形成進化は宇宙そのものの進化と密接に結びついているため、様々な距離にある多数の銀河団を観測することで、宇宙論的な応用にも大きな期待がかかっています。 

 

宇宙の大規模構造

消えたバリオンを追う

宇宙の物質やエネルギーのほとんどはダークマターとダークエネルギーが占め、私たちの身の回りにあるような通常の物質(バリオン) はわずか5%。しかしこのバリオンですら居場所をすべて突き止めることは難しく、初期宇宙にあった量の半分以上が現在の宇宙では見つかっていないのです。これをダークバリオン問題といいます。ダークバリオンは、10万度-100万度程度の温度を持ち、網目状に広がる宇宙の大規模構造に沿って分布しているのではないかと予想されています。このようなバリオンは銀河間中高温物質(WHIM)とも呼ばれ、銀河団と銀河団をつなぐフィラメント状の場所などを狙ってWHIMの出す酸素輝線の検出を試みています。 

 

ダークエネルギー

なぞの宇宙の加速膨張源

遠くの銀河に現れたIa型超新星の観測から、宇宙はスピードを上げながら膨張していると報告されました。このことから、宇宙を膨張させる斥力が宇宙空間にあると考えざるをえず、その力のもとをダークエネルギーと呼びます。その存在は宇宙背景放射などの観測からより確かなものとなったものの、今のところダークエネルギーの正体は全く不明です。

ダークエネルギーの解明に向けて様々な手法で研究が行われています。その一つ、ドイツが開発したSRG衛星搭載eROSITA検出器はダークエネルギーの探査を目的として2019年7月に打ち上げられ、かつてない感度で全天サーベイを実施中です。およそ100億光年先の宇宙まで見通して10万個の銀河団を見つけ出し、ダークな宇宙の解明に挑みます。 

 

銀河と超巨大ブラックホールの共進化

階層を超えた不思議なつながり

超巨大ブラックホールは、我々の銀河系に限らず、多くの銀河の中心に存在しています。超巨大ブラックホールの質量は太陽の数十万倍から数億倍にもなり、かつ銀河の質量と比例関係を持つことも示されています。極端にサイズが異なる両者の間に何故このような関係があるのかは謎ですが、銀河とその中心に潜むブラックホールとが互いに影響を与えながら進化してきたと考えることができます。これを共進化とよびます。

超巨大ブラックホールは周囲の物質を吸い込み、ときに莫大なエネルギーを吐き出します。私たちはその星生成への影響に注目して、共同観測に参加しています。さらに、超巨大ブラックホールの影響は銀河に留まらず、銀河団の中心部にとっても無視できない加熱源となっている可能性があります。様々な階層を超えた不思議なつながりを明らかにすることが課題です。 

 

将来のX線衛星ミッション

XRISM衛星そしてAthena衛星へ

銀河団に閉じ込められたガス、ブラックホールのごく近傍、超新星の爆発の痕跡など、宇宙には数100万度から数億度にもなる高温の場所があちこちにあります。わたしたちが観測できる宇宙の物質の8-9割は温度が高く、X線でしか観測できないとも言われています。

XRISM衛星は、「銀河団の設計図」、「宇宙のレシピ」、「時空のはて」といった宇宙の大きな謎の解明に取り組むため、2022年度の打ち上げを目指してJAXAを中心に国際協力のもと開発が進められています。さらに、2030年代にはより高感度の深宇宙探査を実現するため、欧州を中心に日米欧の協力のもと大型X線観測衛星Athenaのプロジェクトも進行中です。私たちは、これらの将来衛星に搭載されるX線マイクロカロリメータの最高の性能を引き出すため、観測計画の立案にも貢献しています。